人間が生きる意味は何か。何のために生きるのか。
たまにそういう事を言い出す人がいるが、僕にはよく分からない。
意味や目的なんてないだろう。
そこには親が勝手に作って産んだという事実と、それにより死ぬときまで生き続ける事になるという宿命だけ。
それで済む事を、いつまでも悶々と考えたり生き生きと語ったりする人がたまにいる。暇なんだろうか。
。
僕はよく面倒くさい奴だと言われる。でもその理由がよく分からない。
ある日僕は、授業中に自主学習をしているのを先生に注意された。
僕は「僕は人の話を聞くより自分で問題を解いた方が理解しやすい人間なので、この方が効率良いと思うんですけど。」と言った。
しかし先生はそれを許す事はなく、周りの同級生も僕をからかった。
また別のある日、僕は髪の毛が眉毛や耳にかかっている事を注意された。
僕は「髪の毛が少し長いだけでどういった悪影響があるんでしょうか。僕は髪を切りに行くのはお金や時間の無駄だと思うので切らないです。」と言った。
するとやはり先生は反論してくるし、同級生もあいつは面倒くさい奴だと僕に言った。
そんな事が次々に起こるので、いつしか僕は、社会で何も文句を言わずにルールに従って生きるなんて自分には無理だと思ったし、それを当たり前だと疑いもしない周りを見下すようになっていった。
。
僕は休み時間は基本的に1人で本を読んでいる。
するとある時、同じクラスの3人が近づいてきた。
『なぁなぁ、ちょっとさ、今からする質問に答えてくれない?』
なんだろうか。気にはなる。
「別に良いけど。何?」
その後、僕はいくつか質問された。
たしか、
『ジュース名が何も書いてない自販機で何色のジュースを買う?』とか、
『サッカーボールと一輪車を貰った少年が喜ばなかった理由は何?』とか、
『家に刃物を持った不審者が入ってきたらどこに隠れる?』とかだったと思う。あとは忘れた。
なんでそんなよく分からない事を聞くのかなと思ったが、一応答えた。
「まぁ何が入ってるか分かんないから、透明のジュースかな」
「その子は足が不自由だったんじゃないの」
「どこかのドアの裏かな。気づかれなければ背後から仕留めたりできるかも」
すると3人は顔を見合わせて、やっぱり!とか何とか言って立ち去っていった。
結局何の質問だったのか分からなかった。
そもそも聞くだけ聞いて目的も教えず終わりって失礼じゃないのか。
色々不満だったが、僕はまた読書に戻った。
。
ある雨の日の帰り道、僕は傘をささずに歩いて帰っていた。
すると少し前を女子生徒が歩いていた。同じクラスの田中さんだ。
彼女はいつも笑顔で、人当たりが良く、皆の人気者といった印象がある。
一応僕も顔と名前は知っている。
彼女は次の横断歩道を渡った。
するとそこにトラックが突っ込んできた。
しかし彼女はさしている傘でトラックが見えていないらしい。
「危ない!!!」
気づいたら僕は走り出し、彼女を突き飛ばしていた。
「「「ドーーーン!!!」」」
トラックは彼女ではなく僕を跳ねた。
。
『大丈夫!? ねぇ、大丈夫!?』
誰かの声がする。あぁ、田中さんか。
『...どうして? どうして私をかばってくれたの?』
なんかすごく泣いている。理由はよく分からない。
僕のおかげで助かったんだから笑えばいいのに。
「...ぁぁぁぅ...」
ダメだ、喋れない。
まぁとにかく、田中さんは人気者だ。皆にとって存在価値がある。
彼女がしぬより僕がしぬ方が、社会にとっては都合が良い、と考えたから。
それが田中さんをかばった理由だ。
『ううう...ごめんね!ごめんなさい!...もうすぐ救急車来るから!大丈夫だよ』
なぜ謝るのかが分からない。僕が勝手にやった事だから関係ないのに。
そして救急車を呼んだ?僕を命を助ける理由は?
う~ん...ダメだ、やっぱり。
僕には人間が分からない。普通の、社会的な人間が。
ただ1つ分かる事は、もう間もなく僕は意識がなくなる。
死に際って意外と自分で死を自覚できるもんなんだなぁ。
まぁとにかく、1人の人間を僕は救ったんだ。
社会に貢献できたんじゃないかな。
人間に生きる意味なんてないと思っていたけど、僕なりの生きる意味が、何か分かった気がする。
...バイバイ、ありがとう、田中さん......
...あれ、なんで感謝なんてしてるんだろ......
...なんで僕、笑ってるんだろ......
。
完
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