色を失った人間

最近ずっと奇妙なニュースが話題になっている。

あちこちで白黒になった人間が倒れているらしい。

俺も最初に聞いたときは、意味がよく分からなかった。

うちのクラスでもそれについての話でもちきりだった。

『俺見たぜ白黒人間。学校来る途中で倒れてた』

『私も見た。車の運転手だけじゃなくて、車も白黒だった』

中には目撃する子もいるくらい、街では白黒人間が大量発生しているようだ。

そんな騒ぎの中、うちのクラスにとある転校生が来た。

女子生徒だ。先生は俺の隣の席に彼女を座らせた。

転校生『初めまして、黒野です。あなたは?』

いきなり女子に話しかけられた俺はテンパったが、何とか答えた。

「黄島です。よろしく」

『黄島くんね。よろしく』

うちのクラスへの初めての転校生だ。

しかし皆この騒ぎのタイミングであまり関心を示さないようだった。

その後何度か話して、俺と黒野さんは少しずつ仲良くなった。

最初は緊張したが、けっこう話が合うので、俺はだんだん心を開いていった。

そして話はあのニュースに移った。

「最近さ、白黒人間の話題が流行ってるじゃん。知ってる?」

『あ~、なんかニュースやってるよね。色を失った人が倒れてるとか』

「そうそう。俺も最近見かけたんだよね。どんどん増えてるみたい」

「怖くない? 俺らもああなるのかな。黒野さんは見たことある?」

『うんうん、無いよ。あんま興味ないかな』

「そうなんだ...」

これだけ話題になっていて、街でも被害が増えているが、彼女の興味は薄いようだ。

ちょっと不思議な子だなと思った。

翌日学校に行くと、いつにも増して教室が騒がしかった。

「どうしたの?」とクラスの友達に聞いた。

『おお黄島。今朝水野さんが白黒になって倒れてたらしいぜ』

「マジか...」

遂にうちのクラスの生徒からも被害者が出たようだ。

俺は怖くなってきた。

自分もそうなるんじゃないかと、皆もおびえているようだ。

すると黒野さんも登校してきた。

「黒野さん、うちのクラスの水野さんが白黒になって倒れてたって...」

『え、そうなの? それは大変だね...』

さすがに黒野さんも少し深刻そうな表情を見せた。

休み時間、俺は屋上で親友の青原と一緒に弁当を食べていた。

「最近さ、うちのクラスでも白黒になった人が出てさ...」

『マジか。最近ヤバいよな。うちのクラスは3人だぜ』

「噓だろ!?マジかよ。やっぱ俺らも皆そうなるのかな」

『やめろよ。きっと大丈夫だよ』

「そうだよな。でもさ、そもそもこれって超常現象?」

『まあそうじゃね。人間が引き起こしてる事件とは考えづらいな』

「人が色を失って白黒になるって...どうなってんだろ」

俺がそう言った瞬間、後ろから声が聞こえた。

『こうやるんだよ』

するとみるみるうちに、青原から色が抜けていく。

「おい青原!お前、色が...」

『え?うわっ!どうなってんだ!制服も、弁当も、白黒になっていく』

「青原!」

『嫌だ!嫌だ...』

バタン...

青原は白黒になり、気を失って倒れた。

そんな...俺は真横で目撃してしまった。

俺は後ろから聞こえた声の方を見る。

『どう?すごいでしょ?』

こちらを見て微笑むのは...黒野さんだった。

「黒野さん!どういう事なの?」

『残念ながらこれは、人間が引き起こしてる事件だよ。笑』

『犯人は全部私。私には色を奪う能力があるの』

黒野さんは、自分の生い立ちを話し始めた...

ー------------

私はごく普通の家庭に生まれた。

私は産まれた瞬間、すぐに病院で検査されたらしい。

肌の色に血色が見られず、異常なほど白かったからだ。

しかし原因は解明されなかった。

肌は白色、黒目や唇は灰色。明らかに普通ではない見た目。

それに加え、私にどんなカラフルな服を着せても、色あせて白黒になってしまったそうだ。

そんな私を気味悪く思った両親は、次第に私を家から出さないようになった。

数年後、幼稚園児の年齢になると、私は親に虐待を受けるようになった。

何の抵抗もしない私は、ストレスをぶつけるのに丁度良かったらしい。

ある日私は母に殴られているとき、顔を守るために手を顔の前に出した。

そのとき両方の手のひらがたまたま母に向いた。

するとその瞬間から、母の肌と服の色がだんだん落ちていく。

『え? ちょっと何よこれ!』

母は私のような白黒の見た目になり、気を失って倒れたのだ。

私には何が起こったのか分からなかった。

ふと私は自分の足を見た。

左足の親指の爪が肌色になっていて、驚いた。

『おい! どうした!』

少し時間が経ち父が帰ってきた。

父は私の目の前で倒れている母に駆け寄り、白黒になっている事に驚く。

そして私に言った。

『お前! お母さんに何をしたんだ!』

私は試しに父にも両手を向けた。

『うわっ!何だよこれ!身体から色が抜けて...』

「こうしたんだよ」

父も肌や服が白黒になり、そのまま気を失った。

今度は私の右足の親指の爪が肌色になった。

そして私は確信した。

私には他人から身体の色を奪う能力がある。

奪った分だけ逆に私の身体には少しずつ色が着いていく。

私は、これで皆と同じように普通の見た目で暮らせるんだと思った。

ー------------

「なるほど。それで多くの人を白黒にして、君は鮮やかになっていったんだね...」

俺は黒野さんの話を聞いて、状況を把握した。

嘘みたいな話だが、現実に起きている事もあり、すんなり入ってきた。

「ちなみに倒れた人たちって、どうなったの?」

『ああ、あの人たちはね...しんだよ』

黒野さんは淡々と続ける。

『お父さんとお母さんは白黒になった後、肌も冷たくて脈も止まってたもん』

『だから多分他の皆もそうだよ、知らんけど』

俺は怖さよりもむしろ興味の方が上回っていた。

「じゃあ1人白黒にしてころす度に、少しずつ色を手に入れたんだ...」

「いったい今まで、何人ころしたの?」

黒野さんは答えた。

『だいたい...100人くらいかなぁ』

彼女は色の盗難者であり、新手の殺人鬼であった。

彼女は続けた。

『でも無差別じゃないよ。実は色を奪うときに決めてるルールが1つあってね...』

『それは...苗字に色が含まれている人だけ狙う』

水野さん、青原、そして...黄島。なるほど。

『私...まだ乳首だけ灰色なんだよね...』

彼女は恥ずかしそうにそう言った。

そして、両手を俺に向けてきた。

ヤバい!

俺はとっさに、持っていた手鏡を彼女に向けた。

すると...

彼女はみるみるうちに白黒になっていった。

『どういう事!? 色が...色が消えていく...もう戻りたくない!』

『何すんのよ黄島ぁぁぁ!!!ふざけんなぁぁぁ!!!』

彼女は目を丸くして、人が変わったように叫んでいる。

そしてそのまま力つきて、バタッと倒れた...

「た、助かった、のか...?」

俺の身体はいつもと何も変わらない。

黒野さんは白黒になり目の前で倒れている。

勝ったんだ。

俺は安堵して座り込んだ。

『お~い!何してんだそんなところで!笑』

少し離れたところから声が聞こえる。

そこには...いつもと変わらない色をした青原がいた。

「青原! そうか、黒野が倒れて、被害者は元に戻ったのか」

『お前が助けてくれたのか。ありがとな』

「よせよ、照れる」

俺は嬉しかった。

俺たちはその後、白黒に戻った黒野の死体を眺めながら、色鮮やかな弁当を一緒に食べた。

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