中学3年の時、私はアイドルグループのオーディションを受けた。
応募者1万人の中を、何とか勝ち抜き、合格する事が出来た。
あの頃の私は、最初慣れない仕事ばかりで、つらい事も多く、泣いてばかりだった。
学校に通いながら、歌やダンスのレッスン、バラエティ冠番組の収録、握手会など...
忙しいスケジュールの中、日々仕事をこなしていくのに精一杯だった。
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そんな日々を駆け抜けて早3年。
私の人気は徐々に上がり、高校を卒業する頃には、楽曲のセンターを務める事になった。
さらに、モデルや女優として単体の仕事もいただくくらいに成長した。
特に演技の仕事はずっとやってみたかったので、決まった時はすごく嬉しかった。
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21歳の頃には、今までグループのキャプテンを担っていた子が卒業した。
そして、新キャプテンを私が務める事となった。
グループをまとめる責任ある役割を任された私は、今までよりも一層、グループの事を考えて仕事をするようになった。
バラエティ番組でも率先して爪痕を残し、グループの名前を世間に広める事に貢献してきた。
その結果、異性や同世代だけでなく、同性の人や、上の世代の人も徐々にファンになってくれるようになった。
私だけでなく、メンバー一人一人やグループ全体が、以前よりもどんどん人気になっていった。
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その後も順調にアイドル活動を続け、忙しくも充実した日々を駆け抜けた私は、現在25歳。
同期も次々卒業し、後輩たちも人気メンバーとして活躍するようになってきたため、私は後輩メンバーにキャプテンを託し、遂にアイドルを卒業する事となった。
ありがたい事に、私の卒業コンサートが開催されるようだ。
大きな会場で大好きなグループのメンバー、ファンの皆さんに見守られて卒業。
私の10年間のアイドル生活を締めくくるには、幸せすぎる状況だ。
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そしてコンサート本番の日。
一通り曲の披露が終わると、メンバー一人一人から言葉をもらう時間があった。
舞台の中央に立つ私。涙を流しながら手紙を読んでくれる後輩。私は幸せに包まれている。
すると、その瞬間。
後輩の言葉が何だか遠くなっていく。 視界も何だかぼやけていく。
あれ?なんでだろ。 足元もフラフラしてきた。
意識がもうろうとし始めた。 何これ...ふわ~っとする...
バタンッ!
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『ユミ!ユミ!ねぇ、起きて!』
誰かの声が聞こえる。誰かが肩を叩いている。
ハッ!と気づいて、私はとっさに顔を上げた。
「あれ?コンサートは?」
『はぁ?あんた何言ってんの?笑。次美術室に移動だから、急ご』
目の前には、見覚えのある女の子...
「えっ...もしかして、ヨウコ?」
『もう、当たり前でしょ。寝ぼけすぎ~』
ヨウコは中学の頃からの親友だ。
私のアイドルの活動が忙しく、高校卒業後はほぼ会っていなかった。
久しぶりだなぁ。でもヨウコ、何だか顔が幼いなぁ。
ていうか、中学の頃の制服を着てる...
「えっ...ちょっと待って。なんで制服なの?美術室って...ここどこ?」
『ふざけてるの?笑。ここは◯◯中学校。今から美術室行くの。ほら、あと3分しかないから!』
全く意味が分からない。
25歳で、今まさに◯◯ドームで卒業コンサートをしていた私が、なんで母校の中学にいるのか。
ていうか、私も中学の制服着てるし...え、まさか...
私の頭の中に、最悪の状況が浮かび上がる。
「ごめんヨウコ!冷静に今の状況を教えて! 今は西暦何年?何月何日?私、いつから寝てた?」
『はぁ?何なのもう。今は2013年6月XX日。あんたは2時間目の体育終わりで教室戻ってきて、疲れて寝ちゃってたよ。数学の時ずっと寝てたし笑。でさっき起こして、今から4時間の美術。ていうかチャイム鳴ってるし!早く行こ!』
「ちょっと待って!」
私は半泣きになりながら、ヨウコに聞いた。
「◯◯坂45って...知ってる?」
『え?何それ聞いたことないけど。ってか、遅れてるからもう。早く行くよ!』
やっぱり...そうなんだね......
私の最悪の予感はどうやら当たってたみたい......
私がアイドルとして過ごした輝かしい10年間は、15歳の私が教室で見てた夢の中の1時間......
噓だ...噓だ...噓だそんなことぉぉぉー-----!!!
。
完
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