NITAKU

僕の身体は少しおかしくなったのかもしれない。

何かに迷ったとき、二つの選択肢が目の前に浮かび上がる。

まるで僕はゲームの主人公かのようだ。

初めてそれが現れたのは約1年前だ。

普通にコンビニで買い物をしていたときの事。

パンを買おうと思ってそのコーナーに行った時、突然視界がぼやけた。

なんだ急に、と思ったら、そこに問いと二つの選択肢が浮かび上がった。

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Q.今からどちらのパンを買う?

A.メロンパン

B.クリームパン

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僕は自分に何が起きているのか分からなかった。

だがちょうどメロンパンの気分だったので、とりあえず「A」と呟いた。

すると文字が消えて、視界が元に戻った。

「今のは一体何だったんだ」

少し恐怖を感じながら、僕はメロンパンを買って店を出た。

その後もそれは事あるごとに浮かび上がってくる。

ある日の夜、会社の上司に飲み会に誘われて、答えに迷っているとき。

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Q.飲み会に誘われているけど、どうする?

A.せっかくの機会なので、喜んで参加する。

B.観たいテレビがあるので、断って家に帰る。

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これが目の前に浮かび上がった。

なんでしぶしぶ参加する、が無いんだ。なんで帰る理由がテレビに限定されてるんだ。

色々疑問に思いながらも、僕は「A」と呟く。

するとまた視界が元に戻る。しぶしぶだが僕は飲み会に同行した。

とにかくそんな感じで、僕は生活のあらゆる場面で、二択を迫られるようになった。

とある休日、僕は彼女とデートをした。

1日中一緒に過ごし、そろそろ終電が近い時間になった。

彼女が「この後どうしよっか...」と言った。

するとまた現れた...

ー-----

Q.この後どうする?

A.彼女の家に行って良いか聞く

B.今日はこの辺で解散する

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やれやれ、またか。僕はもう二択には慣れてきていた。

ただ1つ不満なのは、大体僕が思いついた選択はいつも、AでもBでもない。

この時も正直、自分の家に連れていこうかと考えていたが、そんな選択肢はない。

だがAでもBでもない答えを言うと、二択は消えてくれない。

だから結局、僕はいつもどちらかを選ぶしかなかった。

「なんでどっちかから無理やり選ばないといけないんだ...」

「う~ん、この後どうする?的なこと言ってたし、家に入れてくれるかもな...」

僕はしぶしぶ「A」と呟いた。

そして視界が元に戻る。

目の前にいたのは彼女ではなく、帽子のおっさんだった...

「うわっ、誰ですか!?」

『はい残念~!やり直し~!』

おっさんがそう言うと、僕の視界はグルグル回り始めた。

ー-----

視界が元に戻ると、そこはデートの待ち合わせ場所であり、昼頃だった。

向こうの方から彼女が走ってくる...

『ごめんお待たせ~!ちょっと寝坊しちゃった~!』

「どういう事だ...?」

どう考えても、今日の昼と同じ光景である。

『お腹すいた~、何か食べた~い。スンドゥブ食べた~い』

マイペースな彼女の、聞き覚えのあるセリフだ。

間違いない。今日が繰り返されている。

マジか。

きっと今までは運よく二択のうち正解を選んでこれていたのだろう。

そして今回初めて、不正解の彼女の家に行くを選んでしまったのだろう。

結局その後は、同じ1日をなんとか自然に再現した。

そして夜にまた同じ選択肢が現れたので、迷わずBの解散を選択した。

視界が元に戻り、僕は無事その場を乗り越えた。

そんな生活が繰り返される日々。

デートまでは気楽に二択を選べていたのでまだ良かった。

ただデート以降は、不正解を選ぶと1日が振り出しに戻ると知ったので、よく考えて慎重に選ぶようになった。

毎回そこそこ緊張するので、僕は次第に疲れていった。

「いつまで続くんだ、この二択の生活は...」

その後もたまに不正解を選ぶ事があり、何度か1日をやり直した。

そしてある日の仕事の帰り道のこと。

疲れて歩いていると、目の前に財布が落ちている。

いつものように二択が現れる。

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Q.この財布、どうする?

A.拾って交番に届ける

B.お金だけ抜いてまたここに置いとく

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なんだこのふざけた選択肢は。Aに決まっているだろ。

僕は迷わず「A」と答える。

視界が元に戻ると、帽子のおっさんだ...

「は!? おいなんでだよ! 泥棒しろってのかよ」

『はい残念~!君はこれで5回間違えたよ!』

おっさんは僕の言葉を聞く耳を持たない。

『ゲームオーバーだよ!』

ゲームオーバー? どういう事だ?

するとたちまち視界がグルグル回り始めた。

視界が元に戻った。

声が聞こえる。『元気な男の子ですよ~!』

どういう事だ? 僕は誰かに持ち上げられている。

そしてさっきから喉が痛いな。

僕はギャーギャーわめいているようだ。意味が分からない。

そして目をうっすら開く。

視界に映ったのは、嬉しそうに泣いている女性...

僕と同い年くらいだがどこか見覚えのある女性...

「...お母さん?」

僕はすべてを理解し、絶望した。

ゲームオーバーになった僕は、25年ほどやり直しになったようだ...

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