ものづくりにハマり続ける友人

とにかく作り続ける事が大切なんだと、友人は熱く語っていた。

作る事で何か新たな価値を生み出し続けるべきだ、と。

小学生の頃、俺は彼と出会い、いつしか仲良くなり一緒に遊ぶようになった。

基本的に俺も彼も、冷静でおとなしいタイプであり、とても気が合った。

しかし彼は、ある時だけは性格が変わる。ものを作るときだ。

絵を描く、工作をする、文章を書く、その他諸々。

彼は授業だけでなく、プライベートでもあらゆるものを作っていた。

彼はものづくりが好きだったんだろう。その時だけは目の色が変わり、情熱的になる。

『ハハ...出来た!出来たぞ!...はぁ美しいなぁ...君もそう思うだろ?』

目がギラギラして何だか圧が強い。いつもと人が変わり気味が悪い。そんな子だった。

ただそんなところも含めて俺は彼が好きで、いつも一緒にいた。

中3の頃、彼はパソコンに興味を持っており、情報工学系の専門学校に進むと言っていた。

その夢を語るときは、また目をギラギラさせて熱くなっていた。

ものを作る時とそれについて語る時は、性格が変わるようだ。

俺は特に夢とかは無かったので、彼が行くところについていこうと思い、同じ学校に進んだ。

そこからだった。彼の様子が大きく変わり始めたのは。

授業が終わり、放課後に彼を遊びに誘うと、中学まではいつものってくれたが、彼は『ごめん無理、時間がもったいない』と言って真っ直ぐ帰るようになった。

そんな事が続き、俺は次第に彼と距離を置くようになった。

俺は他に友達も出来て、学校生活を楽しむようになった。

一方彼は、学校に来て無言で授業を受けて、終わったらすぐに帰る。そんな人になった。

夢を持ってこの学校に入った彼の事だ。多分家でパソコンを使って独学で何か作っているのだろう。

彼は成績も優秀で、テストの点数はいつも余裕でトップだった。

もう話さなくなったが、彼は将来すごい人になりそうだなと思った。

俺は密かに彼を応援しようと思った。

専門学校を卒業後、俺は就職した。彼がどうなったかは知らず、しばらく疎遠になっていた。

それから数年経ったある日の事。

彼から、『久々に会わないか?』と連絡が来た。

急にどうしたんだろうと思ったが、会う事にした。

休日、待ち合わせの場所に行く。

『おぉ、久しぶり』

彼がいた。一瞬誰か分からないくらい、見た目が変わっていた。

「久しぶり! 昔と風貌が全然違うじゃん笑。ビックリした」

『え、そう? 君はあんまり変わってないね笑』

彼は相変わらず冷静で落ち着いた口調だった。

俺は昔の友人との久々の再会が楽しくて、しばらく喋った。

そして話は、今の仕事について、に移った。

俺はIT企業の普通の社員だ。でも彼は違うのだろう。

成績優秀で、ものづくりが大好きだった彼の今が気になった。

「今どんな仕事してんの?」

『今?1年前に会社辞めて、自分で起業して、色んなサービス開発してるよ』

ほら、やっぱりすげぇ。

「どんなサービス?」

『おぉ! じゃあ全部見せてあげるよ!』

彼は急にテンションが上がった。

ものづくりについて語る時は熱くなる、そこも変わってなくて俺は嬉しかった。

彼はスマホ画面を見せながら、自分が手がけているサービスを紹介してくれた。

大きくまとめると、人工知能を搭載させたアプリを作り、人々の生活を支えるという仕事。

それがもうたくさんあり、一部は俺も名前を聞いた事がある有名なものだった。

「これらを開発してる企業の社長? うわぁすげぇなぁ」

俺は感心した。すると彼は嬉しそうに続けた。

『そうでしょ? すごいでしょ? でね、大事なのはここから』

「おう、なになに?」

『この人工知能、表向きは人々の生活を支えるように出来ている、んだけど...』

「? うん」

『実は誰にも気づかれないくらい、ゆっくりと、人々の生活を破壊していくんだよ』

俺は彼が何を言っているのか分からなかった。

「ん~と、どういう事?」

『たとえばこれなんかは、医療現場で使われてて、患者の脈拍に合わせてAIが適切なタイミングで薬を投与するシステムなんだけど、』

「難しいな、でも何となく分かるかな」

『実は微妙にタイミングずらすように設計したんだ。だから徐々に寿命が縮む。助からない』

俺はちょっとゾッとした。

『まあそんな感じ。今のは一例だけど、正直あらゆるサービスのAIがそんな感じ』

『誰にも気づかれないレベルで、微妙にずらして、支えてるようで実は壊していく、そんなサービスばっかり笑』

彼はあの頃のように目をギラギラさせて楽しそうに語っている。

「そう、なんだ...でもなんで俺に話してくれたの?」

『友達だからだよ。秘密を抱え続けるのも、しんどいもんだよ』

「そっか...ありがとう」

思い返せば、彼が中学の頃作っていたもの...

隕石が落ちて建物が壊れる絵、一定の重さになると急に崩れる本棚、登場人物が皆不幸になる小説...

他にも色々あったが、そういえばバッドエンドなものばっかりだったな...

彼は根本的に、人間社会を嫌っているようだ。

なるほど。だから人間社会に悪影響を及ぼすサービスを、作ってるんだな。

俺は彼を...やっぱ面白い奴だ!と思った。

「教えてくれてありがとう!わが友よ...俺もその会社に入れてくれないか?」

『フフッ...君ならそう言ってくれると思ったよ。ようこそ』

社会に出ても、俺には相変わらず夢が無かった。

だが、当時この瞬間に、俺にも夢が出来たのだった...

東京の人口は大幅に減少している。

だがその原因に世間はまだ気づいていないようだ。

『なぁ、俺たち、いつまでもつかな?笑』

「ハハ、大丈夫だろ。まだまだいけるさ」

俺は今日も友人と共に、少人数の会社で、サービス開発に明け暮れている...

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