トマトジュース

「腹減ったなぁ。飯食いに行くかぁ。」

日曜の昼下がり、矢間田は眠い目をこすりながら街に出た。

「もうこんな時間か...」

連日の残業続きのせいか、疲れて金曜の夜からずっと寝ちゃってたらしい。

歩いていると、後ろから声がした。『あれ?矢間田くんじゃない?』

振り返るとそこには、郷宇が立っていた。

「えっ?おぉ! 郷宇じゃねぇか!久しぶりだな!」

彼は矢間田の高校時代の同級生だ。10年ぶりの偶然の再会である。

『久しぶりだね。ずいぶん元気そうで』

「いやぁそれがさぁ、聞いてくれよ。仕事に疲れて2日間くらいぶっ通しで寝ちまってよぉ。」

『ホントに!?ハハ、それはヤバいね。お疲れさま。』

郷宇はあの頃と同じ優しい笑顔をしている。矢間田は懐かしさを感じて嬉しくなった。

「そしたらあいつがさぁ、俺が見てないうちにパイを焼きやがってさぁ、」

矢間田は郷宇に心を許し、すっかり話し込んでいた。

郷宇はそんな矢間田の話を、ただ静かに優しい笑顔で聞いていた。

ワイワイ喋りながら2人は曲がり角を曲がる。その時だった。

「「「キキキィィィー-----ッッッ!!!ドオオオォォォー-----ン!!!」」」

大型トラックが2人めがけてすごい勢いで突進してきた。そして矢間田に思いっきり直撃したのだ。

しばらくの静寂の後、

「っっっ...さ、郷宇ぅ...きゅ、救急車...を...」

矢間田は全身血まみれで死にそうになりながら、傍に立つ郷宇に助けを求めた。

すると郷宇は、しゃがんで矢間田の身体を見ながら、あの頃と変わらない優しい笑顔で言った。

『ふ~ん、これが血かぁ。僕にはトマトジュースには見えないけどなぁ。』

矢間田はゾッとした。それと同時に、とある出来事を思い出した。

ー--10年前ー--

矢間田「おい、郷宇!」

郷宇『なに? うわっっっ!!』

「ハハハ、全身血まみれみてぇだな」

『何するんだよ!! なにこれ?』

「トマトジュースだよ。はは。これでもし血ぃ流しても、区別つかねぇなぁ!」

『やめてよ!!』

ドガッ!ドガッ!ドガッ!

ー-----ー---

「...そうだった。俺、郷宇の事...いじめてたんだっけ...

なんでだろ...なんで忘れてたんだろ...

...ごめん、郷宇...ごめん...なぁ......」

薄れゆく意識の中、矢間田は、笑顔でこちらを見つめる郷宇に、泣きながら詫びたのだった。

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