言葉にしなくても大体察しろ vs 言葉にしてはっきり伝えろ

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Aさんは朝、人の話し声で目を覚ました。

A(う~ん...あぁ、またか。腹立つなぁ。)

時刻は朝の7時だ。

またドアの外で隣のBさんが誰かと電話をしている。いつもの事だった。

本当は目覚まし時計で起きたいのにBさんの声で起こされる、Aさんはそれが不快だった。

Aさんは繊細な人であり、他人の生活音や声に敏感に反応してしまう。

だから自身も、生活音や声に配慮して周りに迷惑をかけないように生きていた。

しかし彼はそんな自分をつくづく嫌だと思った。

A(まだ寝てる人もいるのに、ドアの外という声が響く場所で、なぜ平気で電話が出来る?)

A(俺もあんな風に、音を気にせず生きられる人になれたらなぁ。)

A(いちいち気にしてる俺がバカみたいじゃないか。)

そんな事を思いながら彼は家を出る準備をして外に出る。

彼は毎朝外を散歩して飲み物を買って帰ってユニエアをやるという習慣がある。

それを崩したくない彼は、電話を外でしているBさんと毎朝すれ違う事になる。

これが本当に面倒だった。

直接注意したい気持ちになるが、それで逆ギレされたりしたら困る。

とはいえ割り切って気持ちよく挨拶など出来ない。不満を隠せない。

ガチャッ

B「おはようございま~す!」

A「...どうも~(小声で軽く一礼)」

B「...」

こんな調子だ。人見知りもあるが、気持ち的にBさんに挨拶したくなかった。

Bさんも似たタイプならまだ良かったが、社交的に挨拶をしてくる厄介なタイプだ。

A(あぁ。また散歩から帰って彼とすれ違うのか。もう室内にいてくれ)

Aさんはそう思いながら、日課の散歩に出かけた。

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Bさんの元にはいつも朝方に電話がかかってくる。

彼は電話の呼び出し音で目が覚める事が多い。

B「ん...あぁまた上司から電話だ...」

横で眠る彼女を起こさないように、彼は部屋の外に出る。

B「はいもしもし?おはようございます~お疲れ様です~」

仕事の都合上、ほぼいつもこの時間に電話をしなければならない。

B「そうですね、その準備は完了しておりまして、次の...」

時刻は朝の7時。

上司と仕事の話をしていると、隣の部屋のドアが開いた。Aさんだ。

ガチャッ

B「おはようございま~す!」

A「...どうも~(小声で軽く一礼)」

B「...」

Aさんとはほぼ毎朝顔を合わせるが、大体この調子だ。

こちらが挨拶をしても目を合わさず小声で立ち去る。そして数分後に帰ってくる。

人見知りなのかもしれないが、何だか不服そうな表情をしている。

B(俺、あの人に何かしたっけ?でも何も言わないしなぁ)

B(何か怖いからもう帰ってくる前に部屋に戻るか)

Bさんはそう思いながら電話を終え、部屋に戻っていった。

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そんな事が毎朝続くのだが、ある日いつもとは違う出来事が起きた。

相変わらずBさんの電話の声で起こされるAさんは、この日我慢の限界を迎えた。

A「もうダメだ。これ以上続くならちゃんと注意しよう。怖いけど...」

Aさんは勇気を振り絞ってドアを開けた。

ガチャッ

B「おはようございま~す!」

A「...おはようざいあす~(小声)...あ、あの!」

B「!?...は、はい?」

A(え~っと言葉が出てこない...どうしよ...)

A「毎朝、僕ら会うじゃないですか、何か奇遇ですね~」

B「え、えぇ!...そうですねぇ」

A「それで、その~...毎朝ここで電話していらっしゃるじゃないですか」

B「あぁ。まぁそうですね。仕事が忙しくてね」

A「その、特にその行動って問題ないと思ってらっしゃいます?」

B「えっ...いやぁまぁここの物件ルールの貼り紙に、22時から6時まで喋るの禁止って書いてるので...今7時だから問題ないと思いますかね」

A「あぁなるほどね。時間を守っているから問題ないと」

B「はいそうですね」

A「ほぉ~...分っかりました~...」

Aさんは立ち去ろうとしたので、モヤモヤしたBさんは呼び止めた。

B「いや何なんですか。ちょっと待ってくださいよ。はっきり言ってください」

AさんとBさんの間に少しずつ嫌なムードが流れ始める。

A「...え~っと。はっきり言わなきゃ分かりませんか?」

B「そりゃそうでしょ。なんで変なとこで帰るんですか?」

A「うんまあそうですね確かに。はっきり伝えるべきですよね。ただそれをあなたに言う権利がありますかね」

B「だから何が言いたいんですか」

A「ふぅ...えぇとね。今まで毎朝、7時という時間にドアの外で電話をしてますよね。で確かにルール上は問題ない時間ですけど、ここのアパートの住人はまだ寝ているかもしれない。そして自覚がおありか分かりませんが、この部屋の外の廊下のスペースは話し声が室内に結構響くんですよ」

B「まあ確かにそうかもしれませんね」

A「でしょ?だからそれを考えたら、毎朝平気でこの時間と場所に電話なんて出来ないと思うんだよ。誰かに迷惑をかけているかもしれないって俺なら思うから」

B「なるほど」

A「でもあんたは実際、毎朝電話の声で住民に迷惑をかけ続け、挙句隣人に注意をさせるという心的エネルギーを使わせたんだよ。ここまで人の気持ちを考えずに愚行を重ねておいて、今更はっきり言わなきゃ分からないじゃねぇんだよ!」

Aさんは自分でも驚くくらいにBさんに対してキレていた。

しかしそれを受けたBさんもひるんでいなかった。

B「ええ確かにあなたの言う通り僕の配慮は足りなかったです。そしてそこまであなたを怒らせたのも申し訳ありません。しかしね。はっきり言わなきゃ分かりませんというのも事実なんですよ。僕らのような性格も価値観もバラバラな人間が同じ社会で生きているんです。色々思う事はあっても言葉にして伝えるべきだと僕は思うんですよ。それをあなたは今まで電話をやめてくれの一言もなく、ただ不機嫌そうに挨拶するだけ。それで勝手に怒りをため込んで、今やっと伝えたと思えば、はっきり言わなくても察しろよって。それはさすがに違うんじゃないですか?」

A「何が違うんだよ。だからはっきり言葉にしなきゃ分からないのは正しいけど、それを言う権利があるのは、ある程度人の気持ちを察して配慮できる人間だけだろ。俺はあんたの鈍感さに腹が立ってんの。どういう事なの?なんでさ、寝てる住人を起こしちゃうかもしれないな、この時間の電話は控えようかな、この場所では小声で話そうかなっていう、気遣いというものを出来ないの?それが出来るなら問題ないのに、そうじゃねぇから俺に言われるわけだ。情けねぇよお前。俺はそれが言いたいの。言葉にされなきゃそんな事も分からないお前は頭が悪い!」

B「う~ん何というか。全部あなたの感想ですよね?としか思えませんね。人の気持ちに敏感か鈍感かの判断も人それぞれですし、どの時間と場所と声量で電話したら迷惑になるかの予測も人それぞれでしょう。だから分からないんですって。定まらないからある程度ルールと言う共通の基準が作られるわけでしょ。だからあなたのは理想論だ。みんな俺みたいに繊細で、何も言わなくても気を遣い合って生活できるはずだ、そうあるべきだっていう。あなたの方が頭が悪いです。そもそも僕は反省していますからね。さきほども謝罪したように、現にあなたを不快にさせていた事が今日分かった。本当に申し訳ないですし明日からは場所を変えるなり小声にするなりしますよ。それで話は終わりじゃないですか。なのに理想論を話し出して、人の気持ちを自分より敏感に察せない人を見下す。そこは改めるべきじゃないですかね」

A「これ理想論じゃないだろ。人に配慮するという当たり前の事がなんで出来ない?朝7時によく音が響く場所で通常の声量で電話をするのを、悪いと思うかどうか人それぞれ?そんなのがまかり通ると思うのか? だから事実として朝7時に寝ている人がいるかどうかとか、声が不快と思う人がいるかどうかとか、そんな話じゃないんだよ。その可能性が少しでもあるんだから、全員がそこに気を遣うべきだと言ってるんだよ。だから正直時間は何時でも一緒だ。朝に寝る人もいるかもしれない。何時でも電話はしちゃいけない。そうお互いが考えてないと良好な生活は送れないだろ」

B「だからなんでそうまでしてコミュニケーションを避けるんですかあなたは。人と直接話さずに憶測で配慮をし合う生活をするくらいなら、ちゃんと顔を合わせて言葉で伝えれば良いだけじゃないですか。僕らの話だと、例えばあなたがもう3日目くらいで僕にうるさいなと思ったなら、僕が自分で自分のうるささに気づくまで遠くで待ってないでスッと言えば良いだけでしょ?なんで言わないんです?」

A「だから最初に言っただろ!よく知らないどんな人か分からない人に、声を直接かけて注意をする相手側の心的エネルギーを考えろって。つくづく人の言葉にしない気持ちを軽視してるよなあんたは。そこが大事なんだよ。親しくない人間に注意をしなきゃいけないストレスくらい想像すれば分かるだろ?だから相手に注意させてしまう前に相手の気持ちに気づいて改める必要があんだろ。それをせずに平気で相手に注意させた挙句に、はっきり言わなきゃ分かりませんよと返すお前に、腹が立ってるんだって何回言わせば分かるんだよ」

B「そのストレスがかかるのは分かりますが、他人に言わずに心に留めておいて当然のものですよねそれ。ですから、俺はこんなに怒ってるんだ!俺はこんなストレスを抱えてるんだ!だからそこに言われなくても気付け!っていうあなたの考えが間違っているんですって。僕らはエスパーじゃないんです。人の気持ちは分からなくて当然で、自分の気持ちや考えがあるなら伝える側が言葉にして相手に理解させる、それは当然ですよね?それをするのがストレスがかかるってあなたのワガママでしかないですよ。はっきり伝えてください。」

A「はぁ...本当に分からない人ですね。話にならない。何度も言った通り、言葉にして伝えるのは大切だけど、そうしなくても人の気持ちに配慮して動くべき状況は確実に存在すると思いますし、今回のケースはそれです。はっきり伝えなくても気づくべき事でした。以後気をつけて下さい。」

B「こちらも何度も言った通り。今回のケースは反省しているんです。現にあなたに直接注意された事で悪い事をしてしまったなと。今後は場所や声量に気をつけようと。しかし言葉で言われたから分かった事です。ルール上は問題なかったので、人の気持ちを察知できなかった自分が悪いとは思いません。気づくかどうか関係なくはっきり伝えるべき事でした。行動についてはもちろん以後気をつけますよ。」

二人はめっちゃ遅刻した。

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